小学生の君たちに、「死」についての話をしよう

あなたは小学生の子たちに、
真剣に死について話した経験はあるだろうか。

看護師として働く私の今日はそんな話。

小学5年生の子達入院していた時期がある。

キョウカちゃん、サクラちゃん、ソウ君、シン君。
病室は男女分かれているけれど、
勉強したり一緒に過ごすことが多かった4人組。

皆お互いの病気をなんとなくは知っていて、
でも詳しくはしらない。

キョウカちゃんは治療の副作用で
髪の毛が抜けてきた。

本人が気にしながら
「帽子かぶったほうがいいかな？」
こっそり夜中にナースステーションまで
相談しにくることもある。

髪の毛を洗うことだって、
キョウカちゃんにとっては
沢山の勇気と覚悟が必要だ。

4人が一緒に勉強しているときに、
キョウカちゃんの髪の毛が抜けた。

「なんだよ、キョウカ。ハゲてんじゃん」

ソウ君がからかったせいで、
キョウカちゃんは病室に戻った。

普段はおとなしいサクラちゃんが、
「ソウ、あんた最低！」
そんな言葉をぶつける。

皆で勉強していた時に、
病気で遅れている勉強にイライラして、
キョウカちゃんに八つ当たりをしたらしい。

前から髪の毛が抜けていること。
気づいてはいたけれど、
イライラが我慢できなくて
あたってしまったと後で私に教えてくれた。

キョウカちゃんは、あれから顔色が良く無い。
治療自体の副作用と、ソウ君の言葉。

そして。
キョウカちゃんはご家族の方針もあって、
自分の命の短さを知っていた。

キョウカちゃんの点滴を交換している時に
「ねぇ、しょうこちゃん。
髪の毛抜けた私は可愛くないのかな？
やっぱり髪の毛ないとおかしい？」
そうやって泣いていた。

いつも泣かない子が泣くなんて。
治療よりも、
自分ではどうしようもできない容姿を笑われて。
傷ついたのだろう。

ソウ君はあれから毎日ナースステーションにくる。
キョウカは？
具合悪い？
今日も話せない？

そうやって質問をしてくる。

休憩室で、誰かが消し忘れたテレビがついている。
死についての特集をしている。

メディアでは大々的に取り上げることが、
病院では禁忌とされる。
だって誰か亡くなった時は、
他の患者さんに知られないように
いつも必死に隠してる。

師長が休憩室に入ってきて、
私の隣に座る。

悩んでいることはもうお見通しだろう。

「看護師になってからさ、
何人の人の死にたちあってきたの？
一人や二人じゃないでしょう？
あの4人にあなたが思う死についての話。
してみたらいいんじゃない？」

私は師長の顔を見る。
だってそんなことしたことない。

それに小学生に死の話？
親達はなんていう？なんで思う？
反対しか起きないのでは？

そんな私の心を見透かしたみたいに、

「望月さんはいつも言っているじゃない。
患者さんに明日会えるとは限らない。
私が最期に話す人かもしれないって。
子供だから分からないだろうなんて思ってない？
それはこっちのエゴよ。
正しいか正しくないかより、
大切なことだってあるわ」

死についての特集は、
いつの間にか終わっていた。

いつも勉強している部屋に皆が集まった。
キョウカちゃんは車椅子に座って、
帽子をかぶっている。
あとの3人は椅子に座って私のほうをみる。

少しピリッとした空気の中、私が話し始める。
「ますば、ソウ君。
先にキョウカちゃんと話がしたかったね。
キョウカちゃん、
ソウ君の話聞いてあげてもらっていいかな？」

ソウ君がキョウカちゃんのところまで行く。
「キョウカ、ごめんなさい。
俺最低なこと言った。本当にごめんなさい」

キョウカちゃんは黙ったままだ。

後ろに座っていた師長がキョウカちゃんに話す。
「キョウカちゃん、ソウ君のことね。
許してもいいし許さなくてもいいの。
それはキョウカちゃんの自由。
キョウカちゃんに選ぶ自由があるんだよ」

その後に周りを見渡しながら師長が続ける。
今日はね、
皆に「死」についての話をしたいと思います。
キョウカちゃん、サクラちゃん、ソウ君、シン君。
もし辛くなったら最後まで聞かなくてもいいです。部屋から出て行っても良い。
聞くか聞かないか。
それもあなた達が選んでください。

皆が不思議そうな顔をして師長の顔を見ている。
師長が私のほうを向いて、
どうぞという視線を送った。

「私は皆が知っている通り、
看護師という仕事をしています。
どんな仕事かは普段皆がみているようなこと。
あとはね、
人の死に立ち会うことも看護師の仕事です」

シン君が
「人が死ぬところを見てるってこと？」
そうやって聞く。

「病気で亡くなる人の
最期の瞬間に、立ち会うってこと。
そして亡くなったあとは身体を綺麗にしたり
着替えをしたり、お化粧をします。
亡くなった人はもう話すことはできないです。
どんなに話しかけても返事は返ってきません。
もしかしたら、
亡くなる人と最期に話したのは私かもしれない。
そうやって思うことは沢山あります。
実際にそういうことは沢山ありました」

ソウ君が不安気な顔で私の顔を見る。
「ソウ君は八つ当たりをして、
キョウカちゃんにあんなことを言ったね。
もし次の日からさ。
ずっとキョウカちゃんに会えなかったら？
もう二度と、
キョウカちゃんと話すことが出来なかったら？
どんな気持ちになるかな。
ずっと自分のことを責めちゃうかもしれないね。
実際にね。
そうやってずっと後悔しているご家族の方に、
私は沢山会ってるんだ」

皆がさっきよりも集中して私の方を見る。

「これから皆はもっと沢山の人に会って。
いろんな経験をすると思います。
その時にね。例えば容姿。
身長とか自分自身では、
どうすることもできないことを
笑ったりするような人にはなって欲しくない。
どんな言葉も口にした後はもう時間は戻せません。」

亡くなった人も生き返らないもんね
サクラちゃんが言う。

「そうだね。大切な人が亡くなって悲しい、怖い。そういう気持ちは誰にでもある。
私もずっとこの病棟で過ごしてきた患者さんが、
亡くなるのはとても悲しいよ。
そして私自身にも皆にも、
ここにいる人全員にいつか死はやってきます。
だからね。
普段から大切な人や大事な人にさ、
ありがとうって伝えること。
忘れないで欲しいなって思います」

なんだかすごく疲れたなと思って、
休憩室の椅子に座っていた。
伝わったか分からないし、
これが本当に正しかったのかも分からない。

休憩室に後輩が入ってきた。
「ソウ君が話したいってステーションに来てますよ」

ソウ君の顔がいつもより顔が明るい。
もしかしてと思ったら、

キョウカちゃんと仲直りできたと教えてくれた。

今日の話は難しかったけど、
真剣に死について教えてくれて嬉しかった。
皆が避ける話をしてくれたのは、
子供じゃないって認めてもらえた気がした。

俺、キョウカにずっと言いたかったこと。
今日言えたよ！
しょうこちゃん、ありがとう！

何て伝えたの？
ソウ君は少し照れながら

「キョウカはどんなキョウカでも可愛いよ」