肩書きや権力をふりかざすアナタへ

「ねえ、撮られてるよ」
後ろから女の人の声がして振り向いたら真後ろには男の人が立っていた。

あれ? 女の人の声がしたのに。
そう思ってよく見たら、私のスカートの中にはビデオカメラがあった。

高校2年生の時、私は盗撮されて痴漢にあった。

お姉さんは、その痴漢の腕をつかんで駅員さんに
「この人痴漢です」
と助けてくれた。

特別授業だったその日は午前中でが早く終わって午後からは友達のミサと遊ぶ約束をしていたけれど。
結局遊べなくて私はその日警察署に23時近くまでいることになった。

パトカーに乗って警察の人からの事情聴取がはじまる。
「痴漢された証拠はなんですか? 何をもって痴漢されたといいますか?」
まくし立てるようにはじまった事情聴取。

「あなたスカート短くないですか?あなたにも非があるとは思わないですか?」

警察の人ってこんなこと言うんだ。
そう思いながら、盗撮されたビデオの映像を見てそこには私のスカート中の写真が映っていた。
「この盗撮された映像の下着の写真は私が今履いている下着です。ここでスカートを脱いだらいいんですか?」
そう話したら、男性の警察官がちょっと怯んだ。

こんな風に答えられたのは、あのお姉さんが助けてくれたからだ。
警察署に行く前に
「怖かったね。あなたは何も悪くないよ。あとね。示談の話がでるかもしれないけどしないほうがいいよ」
そんなことを言って私の手を握ってくれた。

カメラの中には私の顔も映っているのに、なんで私だという確認をこの警察官はとりたいんだろう。
そんな風にぼんやり思った。

途中でミサにメールをして今日は遊べないこと、痴漢にあって今警察署にいることを伝えたら
「そっちに行こうか?」
と連絡がきた。

ミサも私と同じ年の高校生で未成年だから来るのはダメだと言われ、ごめんねと送った。
ミサが後から示談のことを調べてくれて私にメールをくれた。

次は警察の人に連れられて、私が痴漢された場所まで行った。
ロープが張られて、黄色のテープには立入禁止の文字。
よくテレビドラマで見るようなシーンが私の目の前にある。

「じゃあ、今からどうやって痴漢されたか再現してみて」

高校の制服を着た私は、警察官達と一緒にいてそこは駅の中。
いろんな人が私の顔を覗き込むようにして通り過ぎる。
なんでこれを痴漢した側ではなく、痴漢された側がやるんだろう。

警察官の1人に
「君もそんな短いスカート履いているからねぇ」
と独り言だけど私に聞こえるように話す。

1時間以上もかかった現場検証。
疲れて家に帰りたいけれど、未成年の私は親が迎えにくるまでは帰れない。

私がまるで犯罪者みたい。

痴漢をした相手は社会的立場がある人で、現場検証から戻ると弁護士がやってきた。

「お金払ってあげるから示談にして。あの人は君と違って社会的立場がある人なんだよ。経歴に傷がついちゃダメなんだ」

お姉さんが言っていた示談とミサが調べてくれた示談の意味が一致した瞬間。

何故か私と弁護士だけが話すという構図で、金額は7桁の数字が並んでいた。

「いらないです」

そうやって断ると弁護士の人は一気に表情を変える。

「は?これだけのお金が一気に君のものになるのに?こんなに出してあげてるんだよ?バカなの?君のせいであの人は立場を失うんだよ」

制服のスカートを握りしめて、私は
「いらないです」
を繰り返した。

親が迎えにきてくれたのは7時間後。
遅かった理由は親の会社に連絡すると言っていたのに、警察の人が連絡をするのを忘れていたから。

親が迎えにくる前に知らない名前の人が私のところに来てくれた。

痴漢を捕まえてくれたお姉さんだった。
捕まえた後、仕事に行った彼女は心配してくれていて警察の人から渡された名刺を見て連絡をいれてくれたらしい。
私がまだ家に帰っていないことを知って、警察署まで来てくれた。

「大丈夫?怖かったよね。こんなに遅くまでいたの?嫌なこと言われたりしなかった?」

弁護士や警察から言われた話を伝えると。

「示談にするのは最終的に決めるのはあなた自身なんだけど。 それをするとね、痴漢した人は逮捕もされなければ、家族にも 会社に知られることもないよ。よく頑張ったね」
20代前半の彼女が。
仕事でもなんでもないこの女性が。
私を助けてくれた。

私は高校生で役職も社会的立場もなくて。
それでもこの女性はまず私の話を聞いて私の言ったことを信じてくれた。
被害者が悪いことなんて一つもない。
被害にあった私のことを一番に信じて、励まして、大丈夫だよと言ってくれた。
私はそれが何より嬉しかったから。
そんな大人になりたいって思ったあの日を絶対忘れない。

これは1年前にも違う書き方で投稿した記事です。
痴漢にあった後も去年投稿した後も。
一部の人から言われた
「お金を貰えば良かったのに」
「普通そんなに貰えないんだからラッキーなのに勿体ない」

その痴漢の人は、常習犯でビデオカメラには他の女性の盗撮もありました。
中には10歳くらいの女の子のも。
私が示談にしないと言って、やっと分かった事実。

もし痴漢をされた小さい女の子がそのあとずっと電車に乗れなかったら?
ずっと心に「私が悪いんだ」という気持ちを抱えたまま生きたなら?

そんなお金。
少なくとも私はいらないんですよ。

自分は社会的立場があるから守られる。
権力があるから守られる。
肩書きがあるから信用される。

警察官だからえらい。
弁護士だからすごい。

そんなこと、全くないと知ったあの日。

自分の持っている権力や肩書きははふりかざすんじゃなくて、大切な人を守る時に使うものなんじゃないのかと30代になった今でも思います。

そしてまたいつかあの時助けてくれた女性に会えたら、大きな声であの時はありがとうございましたと伝えたいです。

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