緊急事態宣言解除の日

私が最初に看護師として働いていた場所は消化器外科。
大腸癌や食道癌など消化器疾患の患者さんが沢山いる場所だった。

人工肛門(ストーマ)といって、腹部に排泄場所をつくる手術をしたり
喉頭摘出(コウトウテキシュツ)といって声を失う患者さんもいた
手術の術式で声だけでなく嗅覚も失って、嚥下状態も不良になって食事は胃瘻からという患者さんも沢山いた。

何かの機能を“失う”
そんな患者さんが多い場所にいた

ストーマの管理方法を教えたり、パウチの交換の時に気をつけることとか

嗅覚を失った患者さんにはガス漏れの時に気がつかないからこうしてねとか

そんな提案を含めた指導もしていた
患者さんの疾患とバックグラウンドから、どんな提案ができるのか大体わかるようにもなった(できていたかはまた別の話)

看護師5年目になる前に師長から呼び出された
部署を移動するかどうか聞かれた

私は5年目もこの病棟で働きたいなと思ったから継続したいと言ったら、予想しなかった言葉が返ってきた

ずっと同じ場所にいることが良いこととは限らないのよ
医師もスタッフも皆あなたを知ってる。ここにいたら見たことある疾患の患者さんばかりくる
先輩もいるけど、実質この病棟で一番長くいる人はあなただけ
ぬるま湯につかる看護なんて20代はつまらないし看護師として成長なんてしないわよ

それから1週間くらい考えて部署を異動する希望を出した

次に行った場所は乳腺科と形成外科が主の病棟だった

乳癌で手術する患者さんは、両方の胸を切除する人もいれば片方の胸を切除する人もいた
切除はしないまま手術を終える人もいた

形成外科は今までの常識を覆すには時間はかからなかった

小児から大人までいろんな年齢の患者さんがやってくる

多合指症といって、指の数が人より多い方が5本の指にする手術をする患者さん

口唇口蓋裂(コウシンコウガイレツ)といって、亀裂が入っていることが原因でミルクを飲むのに時間がかかってしまう赤ちゃん

乳癌で胸を失った患者さんに、インプラントやエキスパンダーといった技術で以前の状態に戻す(または近づける)といった手術

血管腫といって、顔や身体に赤いアザのようなものをレーザーを使って薄くしていく手術

失ったものを取り戻す手術や
なによりも
患者さんのアイデンティティに焦点を当てている
そんな診療科が形成外科だった

26歳で新しい場所で今まで働いたことない人たちと働くことも
知らない疾患を毎日のように勉強することも
いままで出会ったことない患者さんを看護することも
私にとっては大きい経験になった

なにより価値観は人の数だけあるって教えてくれたのがその場所だ

先回りして考えて
どんなことがケアに組み込めて関わっていけるか
そんなことを考える力がついたのはその頃だ

今日、緊急事態宣言の解除が発表された
東京に住んでいて、私は東京で働いている

COVID-19(新型コロナウイルス)の患者さんがいる場所で働いていて、実際に看護している現場にいる

私自身の生活はあまり変わらないし、解除になっても関わっている以上当分は家族を含め皆とも会えない(今のところは病院側がその方針だ)

それでも少しずつ日常に戻ってくる人たちが少しでも安心して過ごせるように私は私ができることを頑張ろうと思う

COVID-19(新型コロナウイルス)に起因して入院してくると予想される疾患の受け入れ態勢もとりながらすごしている
熱中症で倒れる人や、今後ラテックスアレルギーを発症して入院してくる人も予想されるからその対応や勉強も後輩たちに教えている

看護師の今までの日常が戻ってくるのはもうしばらく先だけど、私は元気にしています

これから暑くなる日々が続きます
どうか身体に気をつけて
そして自分自身の心に沢山の栄養を与えてあげてください

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