ありがとうをエールに変えて

世界中の幸せであったかい気持ちが集まって、この患者さんのところに届きますように

そんなことを思いながら、「納体袋」と書かれた袋に患者さんをいれて、一瞬天井を見てキュッと紐を結ぶ

そんなことを3月の初めもずっとしているし、今もしている
コロナで亡くなった患者さんたちは、私が今までしたことない看取り方をしている

ご遺体を袋に入れるなんてしたことないし
ご家族からは、どうしてこんなふうにされなくちゃいけないんですかって
泣きながら言われることがどんどん増えた
きっと私も逆の立場だったら、泣きながら強い言葉をぶつけてるんじゃないかな

緑の葉っぱは、いつの間にか桜に変わっていて

窓から桜見れますよ、ほら!
治ったら一緒にあの桜のところまで行って一緒に見ましょう!
って話した約束は、叶わないことが続いている

一緒に見れなかった桜を眺めながら家に帰って

最近はスタッフの体調不良やスタッフのつわりで私が代わりに受け持つ患者さんの数も増えて

独身手当てでないかなぁと、ちょっと意地悪な気持ちになる自分に落ち込んで、ああ疲れてるんだな早く寝よう
と桜に見送られながら帰る日々

職場の休憩室では、相変わらず1人ずつご飯を食べて
お知らせの紙には
気を緩めずにと看護部長からの通達が貼られてる

もうこの生活は1年がすぎた

それでもやっぱり、亡くなった患者さんたちが今は笑ってますように
好きなことできていますように
ゆっくり休めていますように

そんなことを思っていた夜勤明けに

大通りにある横断歩道は、自転車に乗った制服を着た男の子たち
色違いのガーベラを一輪ずつ手に持っていて、卒業式だったのかなぁってぼんやりしていた
そうしたら、すぐ後ろにいる高齢の方が倒れて、一緒にいるご家族であろう方が悲鳴をあげる
男の子たちもすぐに振り向いて、えっていう顔をしているなぁと思いながら私は駆け寄って処置を開始する
看護師です、とご家族の方に名乗って
呼吸してない、救急車だと判断した時、男の子の1人が
「俺ら何かできることありますか?」
そう聞いてくれた
自転車は邪魔にならないところに、整列されているのが目に入った

もう少しまっすぐ行ったところにAEDという、オレンジ色の機械があるからそれをとってきて欲しい
アルファベットで、A.E.D
機械がわからなければ、スマホで調べたら画像が出てくると伝えると姿が見えなくなった

残った子達には、私とこの人に囲うようにして、背中を向けるようにして立って欲しい
もし君たちの大切な人がいくら緊急とは道端で肌を晒された状態は嫌だと思うからって言いながら

AEDを持ってきてくれた男の子が到着して、処置をしている間に救急車も来た
意識が戻った
救急隊員の人と一連のやりとりをしている時に、「あの」と声をかけられた

救命士の人に、この子達が沢山助けてくれたんですと伝えながら、私も有難う!本当に助かりました
そう言ったら、男の子達が揃って深いお辞儀をしてくれた
するのは私の方なのに

ご家族の方に、病院で検査をした方がいいこと意識は回復していること
パニックで心が落ち着かないだろうけど、今だけは気を張って気持ちを強く持って欲しいことを伝えた

そんなやりとりをして、救急車を見送って家に帰ろうとしたら
まだ男の子たちがいた

あれ?って思ったら

看護師さんなんですよね?
すげーかっこよかったです
俺ら今日卒業式で、やっぱりコロナだから親とか部活の後輩とかは来ちゃダメで
寂しいなって思ったけど
文句ばっかり言ったけど
もっと必死で頑張ってくれてる人いるから、卒業式できたんだってわかりました

いろんなこときっと我慢し続けて、ああいう時無視だってできるのに
こんな人が頑張ってくれてるから、俺ら何にも出来ないし上手く言えないけど

いつもありがとうございます!!
って元気に言ってくれた

君たちは、私がコロナの患者をみていることを知らない
君たちは、私がコロナの患者さんのご遺体を袋に入れてることを知らない

君たちは、この1年間いろんなことを我慢して、私が知らないところで沢山諦めた事があったかもしれない
泣いたことが悔しかったことが
数えきれないくらいあったかもしれない

それでも

誰かのために動いて
言葉にして
エールをおくれるなんて

世界中の幸せであったかい気持ちが、全部私に集まったみたいな感覚になる

何でもできる気がしてきたよ

ご卒業おめでとうございます

君たちの未来が、これから先も
もっともっと
美しいものでありますように

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